咬合に関する概念は変遷しつつあり、従来は単に上下顎を閉じ、噛み合わせた時の歯の接触状態、静的(static)な位置関係や接触関係のみを重視した形態学的見方が主でした。
しかし、現在は静的な上下顎の歯の位置関係のみでなく、顎運動で上下顎歯列が咬合、嵌合するまでの生理的機序、上下顎歯列が咬合した結果生じる生体現象を含めた機能を考慮に入れた動的(dynamic)な概念へと変わってきました。
矯正歯科治療で目指す理想的な歯並びは…?
正面から見ると、上下顎の正中(真ん中の線)が一致し、
横から見ると
上顎第一大臼歯(6歳臼歯)の近心咬頭(↓)が下顎第一大臼歯(6歳臼歯)の頬面溝(↑)に噛み合い、咬頭と裂溝が噛み合う。
下顎中切歯を除くすべての歯が『1歯対2歯』の関係で、交互に噛み合う。
これに加えて、
*歯の形態や数、大きさに異常がない。
*歯列が理想的な弓状(U字形)に並んでいる。
*上下顎の歯の嚙み合わせのバランスが取れている。
*口腔機能(噛む、話す、嚥下など)に異常がない。
*顎の動きに異常がない。
などの条件を満たす歯並びを正常咬合といいます。
しかし、現実的に考えると、この条件に当てはまる咬合はあまりにも実在的ではありません。
そのため、このような理想的な咬合を仮想正常咬合とも言います。
各個人は歯の大きさ、形態、植立状態などが異なり、また顎骨の大きさや形もそれぞれ異なります。
このような条件下で構成される正常咬合はそれぞれ特徴のある個性的な咬合になります。このような咬合をJohnsonは個性正常咬合と名付けました。
そして、矯正治療の最終目的は個性正常咬合の獲得にあるとしました。
よって、歯の大きさ、数に問題があっても矯正治療は可能です。
矯正歯科治療で目指す咬合は、機能的に障害のない個性正常咬合となります。
◎正常咬合への6つの鍵(6Keys to Normal Occlusion)
ストレートワイヤー法の発明者でもあるAndrews LFはその基礎的研究のなかで、
いわゆる正常咬合者の持つ共通点を『Andrewsの6keys』として次のように発表しています。
①上下顎歯列間の関係
正しいと思われる天然歯は1歯対2歯で咬合している。臼歯部が緊密な3点接触によって良好な咬合嵌合が得られる。
②歯冠のアンギュレーション(ティップ)
全ての歯冠は近心に傾斜している。
③歯冠のトルク
上顎切歯以外の歯冠は舌側に傾斜している。
④ローテーション
正常咬合では咬合面から見たときに歯冠の捻転はみられない。
⑤緊密な歯冠接触
歯間接触は緊密であり、歯冠隣接部に空隙はない。
⑥スピーの湾曲
正常咬合ではSpeeの湾曲は平坦かわずかに弧を描く程度です。
下顎第二大臼歯の最も顕著な咬頭と下顎中切歯先端を結ぶ線からの計測では1.5mmを超える深さの湾曲はない。
今回はここまでです。
次回は、正しい顎位・顎運動についてです!