正常咬合について前回お話ししましたが、
咬合を考えるときに静的な上下顎の歯の位置関係に加え、顎運動により上下顎歯列が咬合、嵌合するまでの生理的機序、上下顎歯列が咬合した結果生じる生体現象を含めた機能も考慮するべきです。
私たち矯正医は、歯並びを綺麗にするだけでなく、咬合（嚙み合わせ）を変えることで正しい顎位（下顎の位置）を誘導し、できるだけ正常な顎関節を作り、理想的な咬合様式が得られるように治療します。
それでは、正しい顎の動きとはどのようなものでしょうか…？
一般的に歯による下顎運動の誘導は、歯によるアンテリアーガイダンス、関節部による誘導をポステリアーガイダンスと呼ばれています。これらは、それぞれお互いに調和がとれているのが理想です。
アンテリアーガイダンス（Anterior guidance）
アンテリアーガイダンス（Anterior guidance）とは、Anteriorが「前方」、guidanceが「誘導」という意味になります。
天然歯の正常な噛み合わせの場合、食事や歯ぎしりのような顎を運動させた時に左右の犬歯から犬歯までの６前歯が歯に負担がかからないように顎の動き方を制限してくれます。
下顎を前方へ動かす時（前方運動 Fig.1）は４前歯のみが、左右に動かす時（側方運動Fig.2,Fig.3）は犬歯のみが接触して誘導します。
この側方運動時の犬歯による犬歯誘導：ケイナイガイダンス（Canine guidance）はとても重要です。
Fig.1
下顎が前方運動したときに、上顎前歯部舌面にガイドされることにより、調和のとれた正常な顎運動ができます。
よって、正しい上顎前歯部の歯軸傾斜が必要となります。
下顎を側方運動させた時に、上顎犬歯により誘導されます。
それにより、臼歯部の早期接触、咬頭干渉のない、調和のとれた正常な顎運動が得られます。
前歯と奥歯の働きは異なり、前歯は切歯といって、「噛み切る」役割が主であり、奥歯は臼歯といって「細かくすりつぶす」役割があります。
奥歯はサイズも大きく丈夫なイメージですが、「縦から噛む力」には強いのですが、「横からの揺れる力」には弱いです。
アンテリアガイダンスは奥歯を守る役割があり、歯列を長持ちさせる生体のメカニズムがあります。
＊ブログ（咬合誘導路の傾斜角）をご参照ください。
Fig.2
Fig.3
ポステリアーガイダンス(Posterior guidance)
ポステリアーガイダンス（Posterior guidance）とは、Posteriorが「後方」、guidanceが「誘導」という意味になります。関節部による誘導になります。
顆路傾斜角として表され、下顎の運動をガイドする後方要素であり、顎の機能的運動に伴うヒンジ軸の運動パターンを分析することにより知ることができます。
ポステリアーガイダンスに影響を与える要因としては、顎関節を構成する関節頭、関節窩、関節円板、関節包、靭帯などの諸構造の形態変化や開閉口筋の活動性の変化などが考えられます。
これらの変化は、多くの場合、咬合の不正に起因しており、この変化はヒンジ軸の動きに表われてくるので、アキシオグラフなどを用いて顆頭の運動パターンを知ることは重要です。
顎関節とは、耳の前方部にあり下顎骨が動くときに使われる関節です。
左右に一つずつあり、下顎骨にある下顎頭と、側頭骨にある下顎窩と前方の関節結節で構成されています。
２つの骨の間にはクッションの働きをする関節円板が滑液とともに存在しています。（下の図）
下顎骨には筋が付着しており、顎運動を行います。
下顎を動かす筋は、閉顎に働く咀嚼筋（咬筋、側頭筋、内側翼突筋、外側翼突筋）、開口に働く舌骨筋群があります。
咀嚼は個人差がありますが、顎運動のリズムパターンを持ち下顎運動を行います。
このリズムが狂うと下顎頭や関節円板に大きな力がかかり変形やずれが生じ、摩耗や吸収が起こることがあります。
ひどくなると疼痛や雑音、咀嚼筋が緊張して開口障害が起こり、顎関節症となります。
＊顎関節症についての詳細は、顎関節症についてのブログをご覧ください。
下顎が前方運動したときに、上顎前歯部舌面にガイドされることにより、調和のとれた正常な顎運動ができます。
よって、正しい上顎前歯部の歯軸傾斜が必要となります。
下顎を側方運動させた時に、上顎犬歯により誘導されます。それにより、臼歯部の早期接触、咬頭干渉のない、調和のとれた正常な顎運動が得られます。
＊
咬合（嚙み合わせ）により顎がずれることがあり、顎のずれは顔のゆがみにつながり、顔のゆがみは全身のゆがみを引き起こします。
矯正歯科治療により、正常な顎関節構造を保ち、顎運動を行えるような歯並びを作ります。
